多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)という病名を聞いたことがありますか?

英語での病名は、Polycystic ovary syndromeで、頭文字をとってPCOSまたはPCOと表記します。(本項でも以下、PCOSと記します)

ひどく難しそうな名前ですが、じつは生殖年齢(20~40代)女性の5~8%に発症すると言われており、産婦人科の臨床の場では比較的よくみられる月経異常や不妊の主要な原因のひとつに数えられる病気です。

生理予定日PCOSについて触れる前に、少々長くなりますが、月経と排卵に関して整理しましょう。

月経時の出血初日から、次回の月経出血が始まるまでを月経周期と言います。

通常は28日とされますが個人差や変動も大きいです。教科書的に28日周期の人の割合は、実際には多くないことが知られています。

月経周期を28日とする場合、卵胞期(13~14日)、排卵期(16~32時間)、黄体期(14日)という3つの期間に分かれ、これらは、間脳(視床下部)から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(Gonadotropin releasing hormone:GnRH)が、下垂体を刺激して卵胞刺激ホルモン(Follicle stimulating hormone:FSH)と黄体形成ホルモン(Luteinizing hormone:LH)という性腺刺激ホルモンの分泌を促し、これらの刺激を受けた卵巣が女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンを分泌します。排卵や月経といった周期的な働きは、これらが正負のフィードバックをおこないながら複雑な相互作用によって調節されているのです。

卵巣内で休眠状態にあった原始卵胞(らんぽう:卵細胞の周囲を上皮様組織が皮のように取り囲んだ状態。袋の中に卵細胞が入っているようなイメージ)は、いくつかの段階を経て、じゅうぶんに成長(直径20mm程度)して成熟卵胞となり、そこから卵子が放出され(排卵)、卵子は卵管へと入ります。受精が起こらなかった場合、エストロゲンとプロゲステロンの濃度が低下して子宮内膜が剥がれ落ち、出血とともに体外に排出されます。これが月経です。

卵巣月経開始時に卵巣内に存在している数個程度の未成熟卵胞が、FSHの刺激により成長を開始しますが、FSH濃度低下に伴う成長(生存)競争を勝ち抜き、成熟卵胞~排卵に至るのは通常ひとつだけです。これを主席卵胞と言います。主席卵胞は成長とともにエストロゲンを分泌するようになり、この影響で主席卵胞以外の卵胞は閉鎖します。排卵が生じた後の卵胞はLHの刺激で黄体を形成、エストロゲンとプロゲステロンが分泌されて子宮内膜の発達を促し妊娠に備えます。

PCOSでは、成熟卵胞になれない未成熟な卵胞(2~9mm)がいくつも存在したままで、排卵にまで至らない状態の病気です。そのため、月経異常や不妊につながり、不妊治療の過程で発見されることも多いようです。syndrome(症候群)と付けられていることからもわかるように、PCOSは複数の症候(症状)の組み合わせによる診断であり、病気としての成り立ち・成因という観点では、現時点では、はっきりとした解明はなされていないのが現状です。




PAGETOP
Copyright © 多嚢胞性卵巣症候群は治る All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.